
それは、真夏の名残がまだ肌を焦がしていた、ある9月のこと。
「筑波山は、百名山の中で一番登りやすい山らしいよ」
そんな言葉に背中を押され、初心者だった私は、茨城県つくば市の北端にそびえる標高877メートルの筑波山へ向かいました。日本百名山のひとつに数えられながら、ロープウェイやケーブルカーが整備され、関東圏から日帰りで訪れることができる。
登山初心者でも楽しめる?まずは筑波山神社からスタート
筑波山神社入口バス停(15分)→白雲橋コース登山口(1時間25分)→弁慶茶屋跡(35分)→筑波山(女体山)(25分)→筑波山(男体山)(10分)→筑波山頂駅
つくばエクスプレスの終点「つくば駅」から、筑波山シャトルバスに揺られることおよそ40分。「筑波山神社入口」で下車すると、目の前に現れるのは立派な鳥居と、観光案内所。まずはトイレを済ませ、登山アプリでコースを確認して、いざ神域へ。


選んだのは「白雲橋コース」。登山初心者でも奇岩怪石をたっぷり楽しめると評判のルートだ。正直に言えば、登山などまだ右も左もわからなかった私は、「登りやすい」という言葉をうっかり信じてしまった。
が、足を踏み出した瞬間から、その甘さに気づくことになる。
白雲橋コース|初心者でも登れる…はずが、まさかのサウナ状態

9月。とはいえ、山の下界はまだ真夏の熱気をはらんでいた。登山道には岩がごろごろ転がり、思った以上の傾斜に足が重い。登れば登るほど汗が流れ、Tシャツはたちまちびしょ濡れ。まるでサウナの中にいるようだ。
この感覚。人生でいちばん汗をかいた日だったかもしれない。とにかく水分が減る、減る。こんなに飲んでるのに、まだ喉が渇くとはどういうことだ。

ようやくたどり着いたのは、東屋のある「弁慶茶屋跡」。最近「BENKEI HUT」としてリニューアルされたらしく、木の香りがまだ新しい。少しだけ腰を下ろして、深呼吸。屋根の日陰がありがたい。
奇岩怪石の連続に胸が高鳴る|弁慶七戻り~女体山山頂へ

ここからが、この白雲橋コースの真骨頂だ。
道の途中には、「弁慶七戻り」と呼ばれる奇岩がある。落ちそうで落ちない、大きな岩が頭上に挟まっていて、名前の由来は「弁慶が七度戻った」ほどの恐怖感。だけど私は──なんだかワクワクしていた。岩の下をくぐるときの、あの冒険気分。大人になっても、こういう瞬間があるなんて。

その先も、屏風岩、出船入船、北斗岩など、名のある巨岩が次々と現れ、ちょっとしたテーマパークのよう。登るごとに心が動いていく。

やがてたどり着いたのは、女体山の山頂。
狭い岩の上には、観光客と登山者が入り混じり、皆が息を飲んでいた。関東平野を一望する大パノラマ。空はどこまでも青く、遠く富士の姿もほのかに見えた。神話に登場する女神「イザナミノミコト」が祀られる筑波山神社本殿もここにある。

山頂の御朱印も忘れずにいただく。「登拝」の文字が、なぜだか今日は特別なものに感じられた。
せきれい茶屋で、人生ベスト3のオールフリー

女体山を後にし、男体山へ向かう途中。突然現れた「せきれい茶屋」は、まるで神が差し伸べたオアシス。

冷たいノンアルコールビール「オールフリー」の一口が、渇ききった心身に、突き刺さるように沁みた。冗談抜きで、人生トップ3に入る美味しさだったかもしれない。昔ながらの佇まいと涼しい木陰のベンチでひとやすみ。
御幸ヶ原で親子丼とソフトクリーム

女体山と男体山をつなぐ「山頂連絡路」の途中にあるのが「御幸ヶ原(みゆきがはら)」。ここはケーブルカーの山頂駅がある賑やかな一角で、茶屋や売店が軒を連ねる。

「コマ展望台」では親子丼をオーダー。タンパク質と炭水化物が、今の私にとってはご褒美だった。さらに、売店のソフトクリームも追加。こういうのって、山で食べると数倍美味しく感じるのが不思議だ。

男体山山頂へ、そして下山

休憩を終えて、最後のひと登り。御幸ヶ原から男体山山頂までは15分ほどだが、こちらもなかなか骨のある岩場。油断せず、足元に注意しながら登っていく。

標高871mの男体山山頂には、筑波山神社の男体山御本殿が静かに鎮座している。ここでも御朱印をいただき、静かに手を合わせた。
山の神に、今日という日を、ありがとう。

下山は体力に応じて、また別のルートを選ぶのも良いし、ケーブルカーでゆっくり帰るのもアリだ。私は初回の登山であまりに汗をかきすぎたので、素直にケーブルカーに身を委ねた。

最後に、筑波山神社で手を合わせる。今日の山が、無事で、よかった。
筑波山は、登山初心者にもおすすめの百名山。奇岩怪石を楽しみながら、御朱印や展望グルメなど、お楽しみも盛りだくさん。真夏はとても暑いので、春や秋の山行リストに加えてみてください。
【アクセス情報】
- 筑波山神社入口バス停:つくばエクスプレス つくば駅から、筑波山シャトルバスで約40分
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